報告事項及び一括回答に関する質疑応答(1) ~質問を拒否できる場合~
2014年2月12日 掲載
○説明義務
前回に述べた通り、取締役、会計参与、監査役及び執行役は、株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、当該事項について必要な説明をしなければなりません(会社法314条本文)。このような説明義務を果たすために、一括回答が実務ではなされていることも前回で述べました。
しかし、株主としては、一括回答だけでは必要な範囲の説明とはいえず、より詳細な説明を求めたい場合もありますし、一括回答だけでなく報告事項に対する質問もあります。そこで役員は、報告事項及び一括回答に関する質疑応答があった場合には、原則、その質問に答えなければ説明義務を尽くしたことにはならないことが多いと思われます。
○説明を拒否できる場合
役員は原則報告事項及び一括回答に関する質疑応答に答えなければなりませんが、例外的に質問に対して答えなくても説明義務違反とはならない場合があります(会社法314条ただし書、会社法施行規則71条)。それは以下の通りです。
- 「特定の事項」ではない場合(会社法314条本文)
会社法314条で「特定の事項」と規定されているので、抽象的な質問に答えなくても説明義務違反とはならないとされています(東京高判昭和61・2・19)。 - 当該事項が株主総会の目的である事項に関しないものである場合(会社法314条ただし書)
株主総会の目的は、決議をすることと同時に株主に決議の判断に必要な情報を与えることにあります。したがって、「目的である事項」とは、決議事項に限らず報告事項も含まれるとされています。 - 説明すれば株主の共同の利益を著しく害するとき(会社法314条ただし書)
得意先や製造原価など企業秘密に触れる場合が「株主の共同の利益を著しく害する」典型例です。 - 株主が説明を求めた事項について説明をするために調査をすることが必要である場合(会社法施行規則71条1号)
ただし、当該株主が株主総会の日より相当の期間前に当該事項を株式会社に対して通知した場合や当該事項について説明をするために必要な調査が著しく容易である場合には、調査をすることが必要であるとして説明を拒否することはできません(会社法施行規則71条1号イ・ロ)。 - 株主が説明を求めた事項について説明をすることにより株式会社その他の者(当該株主を除く)の権利を侵害することとなる場合(会社法施行規則71条2号)
- 株主が当該株主総会において実質的に同一の事項について繰り返して説明を求める場合(会社法施行規則71条3号)
- 株主が説明を求めた事項について説明をしないことにつき正当な理由がある場合(会社法施行規則71条4号)
株主の質問が議題と無関係な場合には、「正当な理由がある」といえます。
○正当な理由なく質問に答えなかった場合
正当な理由がないのに、株主総会において、株主の求めた事項について説明をしなかったときは、百万円以下の過料に処せられます(会社法976条9号)また、株主総会の決議の方法が法令に違反し、又は著しく不公正なときにあたるとして、株主総会決議取消しとなる可能性もあります(831条1号)。
○株主総会議事録への記載
株主総会議事録には、株主総会の開会宣言から閉会宣言までの会議の経過の要約を記す必要があります。したがって、報告事項及び一括回答に関する質疑応答についても答えなかった場合にはその内容を含めて記さなければなりません。
次回は、報告事項及び一括回答に関する質疑応答について具体例を交えて説明していきたいと思います。
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