事前質問に対する一括回答

2014年2月4日 掲載

○株主総会における説明義務

 取締役、会計参与、監査役及び執行役は、株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、当該事項について必要な説明をしなければなりません(会社法314条本文)。株主が説明を求めた事項について説明をするために調査をすることが必要である場合であっても、当該株主が株主総会の日より相当の期間前に当該事項を株式会社に対して通知した場合には、説明義務を免れることはできません(会社法314条ただし書会社法施行規則71条1号イ)。

○一括回答は許されるか

 株主数の多い会社であれば、株主が会社に対し事前に質問事項を通知してくることが多くなります。そこで、実務では株主総会の運営を円滑に行うため、事前に通知があった質問事項について議案の審議に入る前に、すべて回答をするという方法(一括回答)が採られている場合が多いです。そこで、一括回答であっても説明義務を果たしたといえるのでしょうか。

 この点、判例(最判昭和61年9月25日)は、「総会運営を円滑に行うため、予め質問状の提出があったものについて、総会で改めて質問をまつことなく説明することは総会の運営方法の当否の問題として会社に委ね」ているとしています。そして、「株主が会議の目的事項を合理的に判断するのに客観的に必要な範囲の説明であれば、足りるのであり、一括説明が直ちに違法となるものではない」と判示しています。
 つまり、会社法上、説明の仕方については何ら規定がないことから、一括回答によることも許され、一括回答により必要な範囲の説明がないのであれば、その後の質疑応答で補充すればよいと考えられます。

○事前通知をしたにもかかわらず株主が欠席した場合

 会社法上、説明義務は、「株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合に」生じるもの(会社法314条)であります。したがって、事前に質問事項を通知していても、株主総会において改めて質問をしなければ説明義務が生じません。
しかし、会社からすると事前通知されているので、回答の準備はしなければなりません。そこで、一括回答として準備すると効率的であるといえます。

○議事録への記載方法

 事前質問に対する一括回答をした場合の議事録への記載方法は、会社法で特に定まったものはありません。そこで、様々な記載方法が考えられます。

 株主の事前質問事項である配当政策、資金繰り、借入金、労使関係などについて、議長指名により代表取締役副社長 C から回答がなされた後、議長は質疑を求めたところ・・・・・

 質疑に入る前、議長は、株主から事前に説明を求められているので、質問要旨の重複、類似、議題に則さないもの、具体性に欠けるものを整理して、代表取締役社長 A から説明させる旨を告げた。
 代表取締役社長 A は次の通り説明した。

  • 営業の概要及び会社の概要に関し、経営理念、不採算子会社、当期利益の減少など
  • 計算書類に関し。有価証券、子会社株式、長期貸付金、保証債務、販売費、一般管理費などの内訳
  • 剰余金の処分に関し、配当政策
  • 議決権行使議決権数などの具体的数字

 事前質問の数等を考慮して、株主に分かりやすい方法で記載すればよいと考えられます。

 次いで、事前質問に対する回答のため、質問をいただいた株主の出欠を確認したところ、いずれも出席していなかったため、回答を割愛し、会場での質問に移った。

 上記で述べたとおり、ある株主が事前質問を通知したとしても、その株主が株主総会に欠席した場合には、説明義務は生じません。そこで、欠席者がいる場合には、このように記載することも考えられます。


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